2017年9月3日日曜日

教職課程コアカリキュラムをめぐる憂鬱

文部科学省初等中等教育局教職員課(2017)「教職課程認定申請の手引き(教員の免許状授与の所要資格を得させるための大学の課程認定申請の手引き):(平成31年度開設用) [再課程認定]」平成29年7月7日暫定版

http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2017/07/11/1388006_1_1.pdf を読む

 
 いつの間にか、前回のブログ更新から1年以上が経った。文部科学省ではいわゆる天下り問題に加え、時の首相の家族が名誉校長に就いた大阪の小学校新設と、首相の友人が経営する私大の獣医学部新設をめぐる説明の付かない過程が明るみに出て、喧噪が続いた。そして、全国の大学教職課程に携わる教員や事務職員には、変化と勉強を迫られた怒濤の1年半だったと思う。
 2015(平成27)年の暮れも押し迫った頃(1221日)、中央教育審議会(中教審)は3つも答申を出し、そのうち教員養成に関する答申1)では2019(平成31)年度より教職課程が一大リニューアルされることが示された。新たに学科や教職課程を立ち上げる大学はともかく、教職課程を置く大学はすべて、2018年(平成30)年度中に「再課程認定」を行うこととなったのだ。
 大学で教職課程を設置する場合、教育職員免許法と同法施行規則等にもとづいたカリキュラムを策定し、前年度中に国の認定を受ける必要がある。具体的には、文科省の教職員課が作成する教職課程申請の手引き(内規)に沿って膨大な書類を作成し、5、6月頃に事前相談に行き、職員から指摘を受けた事項を修正して正式に提出する。教職専属の職員がいるような大学で無い限り、決してそれだけで終わらない。中教審(教員養成部会)課程認定委員会による指摘(だめ出し!)をふまえ、1週間後までの再提出が必要となる。シラバス等に加え、教員の審査が悩ましい。ある科目の「単独担当不可」という判断が下れば、他の教員を加え複数担当とし、最悪の場合は教員を変更する。私事となるが、かつての勤務先で課程認定を行った際、指摘が届くと教職委員会の教員と事務職員で頭を抱え、管理職や指摘を受けた教員に煙たがられながら書類を書き直し、文科省で助言を仰ぐべく授業の合間にタクシーで往復したりした重い思い出が残る。
 再課程認定は、教職課程を既に置く学科が、他の教科・校種の教員免許の課程を置いたり、教育職員免許法が改正されたりした場合に必要となる。今回の再課程認定2)は、2010(平成22)年度より廃止された「総合演習」が2000(平成12)年度が新設される際、その前年度に行われた認定以来となる。しかし、大げさに言えば、戦後の教員養成制度の確立以来の大改革ではないだろうか。「教職課程コアカリキュラム」なる各科目の詳細が示され、これに準拠したシラバスとコアカリキュラム対応表等の作成・提出が必要となったのだ。
 今回の課程認定は、当初恐れられていたフルバージョンではなく、部分的な認定と決まった。小学校の課程では外国語(英語)や「総合学習」の指導法、また特別支援教育に関する科目等、合わせて4科目の新設は必須で、担当者は教員審査も必要である。他の科目は、2017(平成29)年度中の授業科目、また担当者に変更がなければ審査は行われないこととなった。そのため、バージョンアップのような認定となり、事務手続き上は簡素となり良かった。
 しかし、授業の内容面で問題が残る。特に必修科目は、コアカリキュラムで示された「目標」と、「アクティブ・ラーニングの視点等」を取り入れた授業でなければならない。今回の再課程認定を受ける大学は、2017(平成29)年度末までに全科目で新課程に沿ったシラバスと、コアカリキュラム対応表を提出する。科目担当者は、教員審査は行われなくとも、実地調査を受けても問題の無い専門性(活字業績)を整えなければならない。それもようやく再課程認定の手引きが示されたのは、2017(平成29)年の7月である。その中でコアカリキュラムは「(案)」とあり、文科省による7月の説明会でも質問が多く出たと聞く。まさに急ごしらえとなるが、間違いなく国の要請に応えた上で、教職課程担当者の矜持として、学生にとって意義のある授業を組まなければならない。
 「手引き」で示されたコアカリキュラム案は、小学校「外国語」等を除くと90頁から109頁まである。各科目は、①全体目標が示された後、3つ程度の項目でそれぞれ②一般目標と、2、3程度の③到達目標が示されている。例えば、私の担当する「教育に関する社会的、制度的又は経営的事項(学校と地域との連携及び学校安全への対応を含む)」は、教育社会学や教育制度論等の名称で開設されているように、教育社会学をベースとする「社会的」、教育行政学等がベースの「制度的」、実務経験者(元校長等)も多い「経営的」の3分野の担当者が想定されるため、最初の一般目標(1)は3種から選択でき、それぞれ4つの到達目標が揃えられている。そうした配慮は行き届いている。
 しかし、3分野に共通して「(2)学校と地域との連携」、「(3)学校安全への対応」が加えられたことは悩ましい。(2)は、2015(平成27)年の中教審の3つの答申のうち「コミュニティ・スクール」が述べられた答申をふまえた地域連携を内容とする。(3)の学校安全は、教師に必要な学習であることにまったく異論は無い。しかし、特にこの領域で選択科目のない大学の場合、学校安全や地域連携(2017年の改正社会教育法で「地域学校協働活動」が位置付けられた)の分野も網羅する担当者とは、どのような専門なのだろう。誤解を恐れずに言えば、学校安全や地域連携に関する「取り組み事例」を扱い、「アクティブ・ラーニングの視点」を取り入れた授業とすることは自信がある。しかしそのことと、学校安全や地域連携(社会教育)を専門として追求する研究者が数多いる中で、2017(平成29)年度までに何らかの活字業績を揃え、私は学校安全を教えることができます、と胸を張って言えることとは、話が別である。
 さらに疑問を挙げるとすれば、コアカリキュラムの出自である。全科目の全体目標、一般目標、到達目標の3段階で構成するのは、「獣医学教育モデル・コア・カリキュラム」3)に類似するのは明らかである。宮城教育大学学長等を歴任され、国の「教職課程コアカリキュラムの在り方に関する検討会」の座長を務められた横須賀薫氏は、医学部(医師養成)のモデルカリキュラムや工学部等の技術者教育プログラムの認定制度、また東京都教育委員会が作成した小学校教職課程カリキュラムを参考にしたと述べられている4)。他にも全国私立大学教職課程連絡協議会のシンポジウムや雑誌のコラム等で、横須賀氏や文科省の担当者等から同様の話を聞いた。また、「在り方」検討会の委員が医師や薬剤師の他、獣医も・・・と話したのも耳にした。しかし、獣医のカリキュラムがベースだとなぜ明言されないのか。そもそも医師や歯科医師の養成カリキュラムは、科目ごとに細分化されない包括的なものである。ステータスの高い医師、また東京都のカリキュラムが元とすれば反論は無いだろうという判断なのか(実際は獣医養成のカリキュラムがベースであるが)。それこそ、くだんの獣医学部新設をめぐり、獣医養成に精通した文科省の職員が関わったのではとも勘ぐってしまう。
 誤解のないように加えると、獣医養成のカリキュラムにまったく問題はない。むしろ、その慎重な策定過程に学ぶべき点が多い。同カリキュラムの緒言では、全国大学獣医学関係代表者協議会(2004)「獣医学専門教育課程の標準カリキュラム」や国際機関(OIE)による「ミニマム・コンピテンシー案」、そして獣医に就くために重要な「国家試験ガイドライン」をふまえ、ワーキンググループで検討を重ねて51科目を選択したとある。各科目で全体目標と一般目標、到達目標が立てられる構成は教職課程コアカリキュラムと同じであるが、一般目標の数が多く、これだけで15回分の授業が規定される。例えば、解剖学では一般目標、到達目標の順に2058で、生理学では2274である。抽象的な要素が多い(おそらく)教職に近い科目と思われる「獣医倫理・動物福祉学」では、一般目標が11、到達目標が30ある。導入教育(概論的内容)として一般目標の1〜5を行った後、各論的内容の6以降を行う・・・等の但し書きもあり、とにかくこの項目を、この順に学べば完璧だとでも言うような自負さえ感じられる。
 総頁数234に及ぶボリュームのカリキュラムがすごいのは、獣医養成課程を置く国公私立の全16大学の、総数134名の教員が関わっていることである。すべての大学の教員が関わった点で、共通カリキュラムとして諸手を挙げて(混乱はゼロではなかったと拝察されるが)受け入れられたのではないか。
 教職課程は、大学数や免許状の種類が膨大なので、すべての大学の関係者がコアカリキュラム作成に関わることは物理的に不可能だ。それは重々承知だが、学内に中教審委員等がおらず蚊帳の外に置かれた大学では、説明会等で状況を恐る恐る垣間見ることしかできない。それでも新課程に向けて準備あるのみ。学生も自分も納得できる「カリキュラム準拠」を目指したい。

*参考・注

1) 中央教育審議会(2017)「これからの学校教育を担う教員の資質能力の向上について:学び合い、高め合う教員育成コミュニティの構築に向けて(答申)(中教審第184号)」平成271221
2) 文部科学省初等中等教育局教職員課免許係[Webサイト]「教職課程再課程認定申請について」平成29年7月登録
3) 獣医学教育モデル・コア・カリキュラムに関する調査研究委員会(2011)「獣医学教育モデル・コア・カリキュラム(平成23年度版)」平成23329

4) 荒井篤子(2017)「横須賀薫宮城教育大学名誉教授に聞く:「教職課程コアカリキュラム」が目指すもの」『内外教育』2017年9月1日、2-3

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