3月8日は国際女性デー。この日に関連づけて、昨年3月に女子大の関係者が集まるシンポジウムが京都で開かれた。プラン・インターナショナル・ジャパン理事長の池上清子氏の講演を聴き、才気煥発で自信に溢れた女性の大学教員とたくさん話し、黄色いミモザのカクテルで乾杯した。私立医大の入試不正や伊藤詩織さんに代表される性暴力事件も明るみに出て、 #Me Too やフラワーデモのムーブメントが広がった頃で、女子教育そのものが旬なテーマだった。
池上氏が強調されたSDGs にある初等教育の充実やフィスチュラなどの児童婚や保健衛生上の問題は、日本は既にクリアしている、という前提で、女子高等教育が主軸のシンポジウムである。しかし一方で、女子大のあいだで現状や課題といったものの差が広がったことも感じた。
いわゆる有名女子大では、リカレント教育や留学の便宜を考えた4ターム制、トランスジェンダーの学生の受け入れなどを課題に挙げていた。一方で、多くの女子大では、幼稚園や保育園の先生、管理栄養士などの、「女性職」と呼ばれるような専門職の養成に地道に取り組んできた歴史がある。もっとも、時代の先端を行く女子大でもそうした専門職養成は行われているが、学部学科や全学を超えて国際的・広角的な女子教育のビジョンをもてるか、課程の維持・運営に文字どおり拘泥しているかが、一つの分岐点となっているように思う。
特に幼保、つまり幼稚園教諭と保育士の養成がメインである大学・学部では、全国でカリキュラムの画一化と過密化が進む。これもちょうど昨年の春、ほぼ20年ぶりに教職課程が大きく改正された。「教職課程コアカリキュラム」なる新たな国の基準への準拠が求められ、シラバスや授業内容(項目)、場合によっては教員の差し替えさえ迫られた。さらに保育士養成課程も改正され、乳児保育関連の科目や、幼稚園と保育士の課程間の読み替えが効かない科目の増加で、時間割作成や教員の配当は複雑化した。幼保プラス小学校教諭や、小学校プラス中・高の教諭など、様々な資格・免許の取得を可能とするなら、職人技レベルのカリキュラムのデザインと運営が必要と言える。
こうした制度改革の渦中で、複数の教職課程を置くのを止めた大学が出てきた。国のコアカリキュラムに対応できる高度・広範囲な科目と教員を揃えるには限界がある、ならば幼保、または中高の教科に特化しよう、という名誉ある撤退である。この取下げが許されるのは、いわゆる偏差値と知名度の高い一部の大学だと言える。免許・資格の数にこだわらなくても学生は就職でき、受験生も確保できる勝算があるのだ。
誤解を招かないように言えば、教職課程の整理・縮減は、アンチ教員養成では決して無く、ときに職業教育の対局にあるとされる教養教育と、教員養成、ひいては他の免許・資格取得を含めた専門職養成の二つの方向性の両立が目指された結果ではないだろうか。
京都のシンポジウムでは、津田塾大の報告が印象深かった。ルーツとなる女子英学塾では、かの津田梅子氏が次の目的を認めていたと言う。一つ目は “all-round women” の育成で、リベラルアーツの重視につながる。第二は「自立した女性」である。明治期には刺激的でさえある経済、つまり稼ぐことの重要性が説かれた。そして第三は教員養成。津田塾の場合はもちろん英語教員が中心である。明治期は学校教員のみが、女子が平等に就ける職であった。「英語」という専門性を生かして、第二の目的につながる専門就職が目指されたのである。女性に均等に開かれた職が教員だという現実が続く限り、特に教員養成と教養教育をセットで考える津田塾の教育理念は、女子大に共通する理念として首肯できた。
羨ましいエピソードも散見した。卒業生のうち、就職・進学以外の「その他」は、2018年で全体の8%の50名ほどいるらしい。女子大を問わず全国の大学で「就職率100%」が目指される中で、堂々と公表されている。留学未満の遊学や自由業などが想定され、津田塾だから許される数なのかもしれない。なお、「家事従事」というカテゴリーもあったそうで、1979年度は卒業生のうち4%ほどであったが、2015年度よりゼロとなったとのこと。
シンポジウムの当日は、他の女子大による管理栄養士養成課程についての報告もあった。これも単なる資格取得が目的ではなく、幅広く食の現場と研究活動を充実させ、女性が多い専門職の社会的な底上げも図る取り組みとして聴いた。
そもそも国際女性デーや女子大学の存在が、社会的に十分に機能する現実は重い。世界経済フォーラムのジェンダーギャップ(男女格差)指数で、日本は昨年で153カ国中の121位で、その順位は下がるがままになっている。高学力を公平に評価して学生を集めているはずの東大でさえ学部学生の女子の割合は2割未満で、上野千鶴子氏の入学式の祝辞によって「東大女子お断り」のサークルの存在が、今さらながら注目を浴びた。そのような現実がある以上、教養があり、経済的に自立した女性の育成と、そのための教員養成の充実という津田梅子の教育理念は、バランスの違いはあれ、あらゆる女子大で生きている指針なのだろう。高等教育だけでな中等教育、さらには初等教育に遡って女子教育を捉え直す必要もあるかもしれない。
今年はコロナウィルスの感染防止のため、同様の女子大シンポジウムが中止となった。公立校の休校措置や家庭保育・介護の必要、非正規職の調整などから、多くの女子学生への影響も心配されるこの頃である。
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