- サントリー美術館(東京都港区)展覧会「没後100年 宮川香山」(主催は他にNHK、NHKプロモーション、読売新聞社)2016年2月24日〜4月17日 http://www.suntory.co.jp/sma/exhibit/2016_1/
- 横浜美術館(神奈川県)企画展「村上隆のスーパーフラット・コレクション:蕭白、魯山人からキーファーまで」(主催は他に日本経済新聞社)2016年1月30日〜4月3日 http://yokohama.art.museum/special/2015/murakamicollection/index.html
サントリー美術館の展覧会は、インパクトが強烈な代表作揃いだ。背中を丸めた白黒の斑(毛並みも見える!)の猫(日光東照宮の眠り猫がモチーフらしい)を、金色の瞳を見開き白い歯がのぞく半開きの口で下から見上げる体勢(図録によると「今まさに目覚めた表情」で、田邊氏によると「いない、いない、ばー」らしい)で蓋の上に載せる水指や、第2回内国勧業博覧会出品作品(その後、博物館(現在の東博)が買い上げる)で現在は重文指定を受けた、ひしゃげた陶製の鉢に艶光りするタラバガニが跨がる花瓶等。「高浮彫」では無く、田邊氏の書籍の写真では今一つ魅力が分からなかった花瓶は、高さ30cmに満たない藍色(瑠璃釉)の地に白釉で無数の文様(宝尽し文等)が敷き詰められ、三羽の鳳凰(田邊氏のイメージは漫画家・手塚治虫の火の鳥)が所狭しと羽を広げ、きめ細かく盛られた白の文様と地の藍色が一寸の隙間無く混ざり合う絶品だ。ふと、この展覧会は特に中高生に薦めたいと思った。
第一の理由は、そのスーパーリアルな描写である。猫や鶉、鬼等が、驚くほど精緻かつ躍動感をもって表現される。毒々しいほど鮮やかな色合い、細か過ぎる大量のモチーフ、サービス精神旺盛な生き物のポーズ等々が「分かる」という感覚をもって鑑賞出来る。対象が具体物で、おそらく言葉にし易いのだ。
第二の理由は、予備知識が無くても十分楽しめ、第一の理由につながるが、「分かる」という感覚を持てる上、語り易いのだ。真葛焼や横浜焼等々は教科書に載っていない。残念ながら今月末で閉館する横浜市青少年交流センターがある野毛山にかつて「花屋敷」があり、その前は京都出身の香山が横浜に最初に開いた窯場であったことは、田邊氏の書籍で初めて知った。そうした史実も研究の途上で、また超絶技巧と呼ばれる高度な技術と、投機対象としてのゴージャスさを競い、純粋なアートとして十分に評価されなかった分野であるので(後に香山は帝室技藝員に任命され、芸術としての陶芸を確立させるが)、蘊蓄抜きで自由に、また横浜市民であればより親近感を持って語れる作品群なのだ。
第三に、SNSを利用した楽しみ方が出来る点だ。もう一つ、横浜美術館の村上隆コレクション展を中高生に推したいが、香山展とともに条件付きだが(死語かも知れないが)「写メ」OKであり、Twitter等で「見た!」という画像とメッセージが行き交っている。希代のコレクターとしての力量と、大量の作品群で構成した独自の小宇宙を見せつけた村上隆展では、どこでも(作品のみを撮らなければ)OKである。堂々とスマホで楽しめる今時のサービスである。香山展は、撮影可能場所が階段下に広がる吹き抜けのスペースで、「ぜひ撮って」と言わんばかりのベストポジションとなっている。それも、太目のロボットのような獅子が蓋に載る「金ぴか」な対の壷の胴部の窪みに愛くるしい蛙が太鼓を叩いたり図巻を広げたりしているような、思わず接写したくなる作品ばかりだ。
等々の理由で、ぜひ中高生には一人で、あるいは友だちと、騙されたつもりでまずは展覧会に行ってほしいと思う。校外学習や家族旅行等で行かない限り、博物館、特に美術館は中高生にとって縁遠い施設ではないか。よほど美術に関心が無い限り、こうした展覧会の情報そのものが入ってこないだろう。
村上隆展を開催中の横浜美術館では、中高生対象のプログラムが注目される。昨年の夏は、火薬を使うパフォーマンスで知られる蔡國強の展覧会で、中高生が小学生を案内するというワークがあった。また、六本木の森美術館の中高生プログラムと連携し、中高生同士で互いに訪問し合い、案内もし合うという心憎い交流も行われた(当時森美はベトナム人アーティスト、ディン・Q・レの企画展を開催中)。学校での利用は当たり前になったが、中高生が個人参加出来るプログラムは未だに少ない。中高生は部活や塾が忙しいから、という理由も分かるが、近所の美術館に立ち寄ってみたいと考える、あるいはきっかけがあれば訪問する中高生は実は数多く潜んでいるのではないか。
彼等の利用を阻む要素は、まず情報が少ない問題があるが(だからこそSNSに期待したい)、生身の善き案内人(ガイド)の稀少さである。悪い意味で上から目線の教師で無く、今時の言葉で言えばメンターのような、お兄さん・お姉さん的存在である。香山展では運良くコレクター、田邊氏の講演会を聴講出来た。学会を担う専門家では無く、商売人や「ちょいワル」(これも死語か)のオトナ目線であり、語り口も内容もフランクでありながら「香山愛」が伝わる、良い意味で子どもっぽい真摯さがある。氏は「スポーツチャンバラ」の創始者で、日本スポーツチャンバラ協会の会長を務められているそうだ。そうした「子ども目線」の持ち主は、年齢に関係なくガイドに相応しいのではないか。氏のような人に出会えれば、微妙な年頃の中高生も足を踏み入れる気になるかも知れない。
入館料の問題もある。香山展は、中学生以下は無料だが、高校生は大学生と一緒で1,000円かかる。村上隆展も高校生は大学生と同じで900円、中学生も有料で400円である。香山展を開催するサントリー美術館は赤坂のミッドタウンにあり、エリア全体の年齢層が高い。「和」がコンセプトの館に着物で来館する「きもの割」で100円オフになる。携帯サイトの画面の提示による割引サービスもあるが、制服(学ラン?)割引でもしない限り、やはり敷居が高いと思う。村上隆展は、土曜は高校生以下無料という太っ腹な計らいであるが、今は試験休みや春休み等のシーズンなので平日こそ広げてほしい。「夜のアートクルーズ」なる魅力的な夜間ツアーは、18歳以上が対象である。午後7時終了で良いので、中高生向けの遅い時間帯のツアーもぜひ企画していただきたい。
割引絡みでもう一つお薦めを。神奈川近代文学館(神奈川県横浜市)でもうすぐ始まる夏目漱石展では、漱石作品を紹介する「POP」を募集している。郵送も可能で(出来はともかく)応募すれば、もともと100円の高校生料金は無料となる。
中高生が博物館に来るにはどうしたら良いか、そもそもその必要はあるか、中高生と、まずは身近な大学生の意見を聞いてみたい。もうすぐ新年度が始まる。
*参考
- 田邊哲人(2011)『大日本 明治の美 横浜焼、東京焼[増補改訂版]』叢文社
- NHKプロモーション編集・発行(2016)『没後100年 宮川香山』(展覧会図録)
- 染谷ヒロコ(美術検定ブログ)「横浜美術館 中高生対象:長期教育プログラムレポート 第1回」2015年8月25日 http://bijutsukentei.blog40.fc2.com/blog-entry-193.html (全3回)
- 神奈川近代文学館(神奈川県)特別展「100年目に出会う 夏目漱石」(主催は他に朝日新聞社)2016年3月26日〜5月22日 http://www.kanabun.or.jp/exhibition/4344/
- 神奈川近代文学館「夏目漱石作品のPOP募集!」2016年2月 http://www.kanabun.or.jp/uploads/2016/02/sosekipopcontest.pdf
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