2016年3月31日木曜日

“保育園落ちた”問題に思う

NHKラジオ第1「社会の見方・私の視点」2016年3月31日 を聞く


軽快なラジオ体操♪終了後に流れる「社会の見方・私の視点」(旧「ビジネス展望」)。今朝のゲストは中央大学教授・山田昌弘氏であった。「パラサイト・シングル」、「婚活」等の流行語を生み出し、主に家族関係の社会問題を鋭く射抜いてきた社会学者である。が、今朝はどうも歯切れが悪く聞こえた。
タイトルは「入れるか、入れないか、それが問題だ」のようなもの。つまり、待機児童問題である。くだんの「保育園落ちた」ブログを発端にこの問題が政策論争を巻き起こし急展開している。これを契機とした状況改善を強く願っているが、その前に状況を知っていただきたい、と言いますか、共感と想像力をもって少なくとも事態を理解していただきたいと僭越ながら思ってしまった。
保育園問題は何が問題か、見当がつかない人も多いと思う。今年2月末の国会(衆院予算委員会)で、現・民進党の政調会長に就いた山尾議員が「保育園落ちた」ブログの文言を読み上げた時、なぜかちょうど中継を聞いていた。安倍首相は匿名だし確認出来ません云々と子どもに門前払いを食らわせるような答弁をし、稚拙なヤジも飛んだ。一般の、特に保守層の壮・老年男性の認識はそうしたものが多く、同年代の多くの女性にも同様の反応が見受けられるように思う。保育園は特定の層や女性が必要とするプラスα の福祉政策である認識と、慌てて答弁しようにも事業の実態は複雑で感情面から攻めたくとも良く分からない(首相からは保育士を表彰したいという案も出ていたが)という状況を、今朝のラジオでも再確認したように思う。
山田氏の時代を切り取る目と、それを嫌み無くユーモアに包み発信される力は頭抜けていて、内閣府や文科省の審議会等で的確でバランス感覚のある政策提言もされている。しかし、本日のラジオ講話は「保育園に入れるかどうか」が主眼で、今年度(2015-)から導入された子ども・子育て支援新制度のもとで市町村が必死で取り組んでいる小規模保育等のいわゆる「地域型保育事業」等にも目を向けた、ありきたりでない見解をうかがいたかった。
首都圏に居住する有識者は、保育園と言えば公立の施設をイメージされるのではないかと思う。公立で無い社会福祉法人立の認可園の多さや、東京都や横浜市等が独自に認証している施設等は最近の報道でも話題になったと思うが、公設公営の保育園は本当に稀少な存在だ。アナウンサーも「公立」云々と話されたように聞こえたが(まだ Podcast に反映されていないので改めて確かめていないが)、待機児童問題の改善のためには「公の保育園」そのものを理解することが肝心だ。幼稚園の緩い対義語としての保育園というより、児童福祉政策としての「保育所」だ。
厚労省が把握している2015年4月現在の保育所の設置状況を見ると、公立の保育所は増加傾向にあるものの全国で9,212施設。社会福祉法人設置のものは12,382で、全国の保育所23,537施設のうち公立は39%しか無く、社会福祉法人立は53%に至る。増加が目立つのが株式会社・有限会社立の927施設(前年は657)、NPO立の165施設(前年は94)である一方、新制度の影響か、学校法人立は激減し366施設(前年は652)となっている。
新制度の大きな目玉となっている地域型保育事業については、同じく厚労省の平成27年4月現在のデータによると、特に保育所に近似する給付型の小規模保育は1,655件ある。それらの6割が株式会社・有限会社立や個人立で専ら首都圏が多く、埼玉県231件を筆頭に東京都219件、大阪府163件と続く。「保育ママ」等と呼ばれる家庭的保育は、全国で931件のうち8割が個人立で、東京都が断トツで457件、次に神奈川県93件となっている。
今回の待機児童問題糾弾は制度改革の契機となったが(真の実現を願うが)、同様に1970年代後半から一大物議を醸し公的チェックが進んだのが「ベビーホテル」であった。保育園が無いためやむを得ず保護者等の共同保育が広がり、その他にも認可外の一時預かり所やを夜間保育が生まれ、残念ながら一部の劣悪施設が横行した。そして今日、(嫌な言い方だが)「待機児童の受け皿」として、認可外保育施設が改めて注目されている。
認可外と言いながら厚労省は指導監督を行うため実態把握は行っており、「平成26年認可外保育施設の現況取りまとめ」によると、認可外は全国で8,038カ所に及び、入所する子どもは20万1千5百人に及ぶ。ベビーホテルは減少しているが、自治体が独自に行う認証保育所等の保育事業を含めた認可外保育施設の総数は増加傾向にあり(前年度比99カ所増)、待機児童解消に躍起となっている市区町村の公立保育園数に追いつきそうな勢いに見えてしまう。
手元にデータを置き偉そうに書いている私も、保育士養成を行う勤務先に変わらなかったら、また我が子が0歳で保育園に入り、3歳で「保育園落ちた」ため幼稚園に通わなければ、問題の糸口すら気づく機会は無かったと思う。申込の時点から、大袈裟でなくカルチャーショックの連続だったのだ。本当に。
地域差も大き過ぎる。都内では公立保育園が身近だったが、神奈川に引っ越すと、私立園ばかり。念のため先述の厚労省調査を確認すると、東京都の保育所数は公立898でその他1,189、政令指定都市を除く神奈川県では公立園は僅か97でその他も260のみ。一時は待機児童ゼロで話題となった大都市・横浜市も今年2月現在、市立園は86(横浜市保育所総数の13%)のみで、民間は568116ある認可外の「横浜保育室」で待機児童を緩衝している現状である。全国の状況を見ても、例えば長野県は公立が403園で総数47884%に上る一方、静岡市、青森市、豊中市等には公立園が一つも無かったりする。
待機児童の状況も、例えば住民サービスに定評がある人気の住宅地、東京都三鷹市の今年4月1日申込状況を見ると、ある認可園で0歳の募集12名に対し申込95名(8倍!)、3歳の募集2名に対し申込28名(14!)とある。私的な経験からも、他の園を打診されたりして事務的な手続きやあれこれ検討すること自体に手間と気力を磨り減らさないか懸念されるし、地域や園の方針の差も大きい。埼玉県所沢市で話題となった育休退園や(所沢をきっかけに神奈川でも複数の自治体が同様であったことが明るみに出たが)、週末は子どもの昼寝用の布団を持ち帰って干す(兄弟がいる場合は2枚等になる)、指定された形の衣類入れ等を手作りする等の園独自の親泣かせなルールが残る園もある。
保育所の改善は、瓢箪から駒かもしれないが時流に乗って良い方向に進んでほしい。単に「入れるか入れないか」の問題に終わってほしく無いし、門外漢としては民営化や小規模等の施策の理想像(終着点)を知りたい。
現状に関心が集まるだけでも大躍進ではないか。一連の待機児童問題で母親ばかりがクローズアップされるのも勿体ないと思う。ぜひスーツを着た大人の男性にも、ビジネスライクに役所や事業主等に掛け合ってほしい。保育の一番の当事者は子どもであるが、親も当事者である。しかし数年で当事者を「卒業」してしまい改善の思いが次世代に生かされず、思いはあっても学校教育や職場の当事者となったりして疎遠になってしまう。なぜ改善が進まなかったか、なぜスルーされてしまうのか、旧(?)当事者や非当事者の観点も多く酌んでほしい。

*参考

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